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六一  ご復活



 あかつきの空がしらじらと明けそめたころ、わたしはマグダレナ、マリア・クレオファ、ヨハンナ・クザおよびサロメがマントに身を包み、晩餐の家を出て行くのを見た。かの女たちは香料を持ち、一人は燃える灯をたずさえていた。非常な不安におびえながら、聖なる婦人たちはニコデモの家の小門の所へ行った。

 ちょうどその時、わたしはイエズスの霊魂が大いなる輝きのうちに戦いの天使たち、多くの輝く光に取り巻かれつつ天井から岩におり、聖遺骸の上にただよいくだられるのを見た。ご霊魂はあたかも聖遺骸の上にかがみ、それに溶け合わさってしまったようであった。わたしは主の手足が聖骸布の下で動くのを見た。すべてが光りと輝きに満ちていた。

 その時わたしには人間の頭をした竜の姿が、奈落からうねり出て聖遺骸の台の下に登って来たように見えた。かれはその尾を巻き、憤怒に燃えた頭を主の方に向けた。復活された救世主は手にひるがえる小旗のついたきれいな白い杖を持っていた。そして竜を踏みつけ、杖をもって三度獣を突いた。怪物は一突きごとに小さくうずくまりついには消え失せてしまった。わたしはこの竜の本体が楽園の蛇であることを思い出し、またこの幻は「女の子孫は蛇の頭を砕くであろう」という約束に関連しているのだと理解した。すべてこれらは主に対する勝利の単なる象徴としてわたしに示された。それはわたしが蛇の頭の砕かれているのを見た時、お墓は少しも見えなかったからである。

 さて主は輝きつつ岩を通って漂い出られた。地はふるい、軍人の姿をした一位の天使がいなずまのように空から墓に舞い下り、石を右の方にころがし、その上に座った。地響きは非常に大きかったので、火のかごは揺れ、炎はあたりに飛び散ったほどであった。監視兵は気を失って地上に倒れ、よじ曲がって、硬直し、死んだように横たわった。カシウスは確かに聖なる墓を取り巻く光りと、天使が石をころがしその上に座っているのを見たが、よみがえられたお方は見なかった。かれは直ちに気を取り直し、聖遺骸の台の所に進み、空っぽの聖骸布に手を触れた。そしてもう一度何か不思議な現象が起こりはしないかとしばし一心に待った。天使が空からくだり石をかたわらにころがした瞬間、わたしは救い主が最も聖なるおん母に現れたもうたのを見た。主は非常におごそかに美しく輝いておられた。その衣服には広いマントのように手足に打ちかけられ、歩みを移されるごとにはしの方は空中に舞い、朝日に輝く煙のように青白く輝いた。おん傷は非常に大きかった。そして光り輝いていた。おん手の傷には指を一本入れることができるほどであった。主はこれらの傷をおん母にお示しになった。聖母は主の足に接吻しようとしてかがまれたので、主は聖母の手をとって起こされた。そして消え去られた。

 主が墓から出られた時、聖婦人たちは小門の所まで来ていた。みなその時起こった徴には何も気がつかず、また昨日は終日閉じこもっていたので墓に見張りがいることも知らなかった。そしてたがいに心配しながら「だれが墓の石をころがしてくれるでしょうね」と話し合っていた。かの女たちはただ聖遺骸を最後にうやうやしく葬ろうと一心に思いつめていたので、石のことは始めのうち、少しも考えていなかった。それで墓をあけてくれる弟子がだれか来るまで、香料を墓の前に置いて待とうということを決めた。こうして庭の方に近づいて行った。しかし燃えている火を見、地上に横たわる兵卒らを見ると、急に恐ろしくなって庭の中に入らずカルワリオ山の方へそれてしまった。しかしマグダレナは危険をみな忘れ、急いで庭に入った。サロメも少し離れてついて行った。

 二人は地上に横たわる番兵の間を通り抜けて墓に近づいた。石がそばにころがり、戸が半ば開いていた。マグダレナは大いに驚き、扉を押し開いて聖遺骸の台を見つめた。聖骸布は空になっていた。あらゆるものは光り輝き、一位の天使が聖遺骸の台の石に座っていた。マグダレナはすっかり仰天した。かの女は直ちに庭門を通り抜け、使徒の所に急ぐのだった。サロメもまたただ前の室に入っただけであったが、すっかり恐ろしくなって逃げ出し、他の二人の婦人の方に出来事を知らせようと急いだ。この婦人たちは驚きのあまり、あえて庭に入ろうとしなかった。その時、カシウスに出会った。かれは事件を報告しようと、ピラトのもとに急ぐ所であった。かれは歩きがけ、婦人たちに見たことを言葉少なく告げ、なおかの女たち自身でそれを確かめるようにすすめた。それで一同は元気を取り戻し、庭の中に入った。非常な恐れのうちにみなが聖なる墓の前室に足を踏み入れた時、司祭の服をまとった二位の天使がその前に立った。婦人たちは恐ろしさのあまり、おたがいに身をすり寄せ、手を上げながら地上にうずくまってしまった。すると一位の天使はかの女らに恐れる必要のないこと、また十字架につけられたお方はもはやここにおられぬこと、主は生きたまいよみがえり、もはや死者の墓のうちにおられぬことを告げた。そして空の場所を示し、かの女たちが見、かつ聞いたことを弟子たちに告げるように命じた。また言った。イエズスは使徒たちに先立ってガリラヤに行かれるはずであると。また主が以前に「人の子は罪びとの手に渡され、十字架につけられ、三日目によみがえるであろう。」とおおせられたことを思い出すように - と語った。ふるえ、おびえ、おずおずとしながらも、喜びに満たされて聖婦人たちは聖遺骸の台と聖骸布を見た。それからかの女たちはそこを出た。かの女たちはまだ非常な恐れからぬけきらなかった。そして時々立ち止まって、あたりを見まわした。 - 主を見かけはしないだろうか。あるいはマグダレナが戻って来はせぬか - と。  

 かくするうちにマグダレナは晩餐の広間に着いた。かの女は無我夢中だった。激しく扉をたたいた。何人かの弟子たちはまだ壁に寄り添うて横たわり寝ていた。他の者は立っていっしょに相談していた。ペトロとヨハネが扉を開けた。マグダレナは戸口でせき込んで言った。「あの人たちは主を墓から取り出してしまいました。どこに行ったかわかりません - 。」そして大急ぎで再び墓の方に戻って行った。ペトロとヨハネはそのあとを追った。ヨハネはペトロよりも早く走った。

 マグダレナは露でびしょぬれになって再び庭に戻った。そのマントは頭から肩にずり落ち、髪はときほぐれていた。しかしかの女はただ一人だったので墓の中に入ることをあえてせず、前の室の入口にたたずんだ。そこから奥の方にある扉を通して聖遺骸の台をのぞきこもうとしてかの女はかがんだ。すると台の頭と足のところに白い衣を着た二位の天使が座っているのを見た。そして「女よ、何を泣いているのか?」という言葉を聞いた。マグダレナは悲嘆にかきくれ叫んだ。「あの人たちがわが主を取り去ってしまいました。そしてどこにおいたかわからないのです。」こう言いながら、かの女はどうかして見つけようとして、探しものでもするようにそのあたりを見まわした。かの女は主が近くにおられることをおぼろげに感じた。天使の出現もひた思いのマグダレナには、眼中になかった。マグダレナは自分に言葉をかけたものが天使であるとは少しも気がついておらぬようであった。わたしはかの女が墓の前であちこち探しまわっているのを見た。

 その時かの女は墓岩から十歩ほど離れた棕櫚の木のうしろの繁みの間に、白い衣服をつけた丈の高い姿を薄もやのうちに見た。かの女はすぐその方に歩み寄った。またもやかの女は - 「女よ、なんで泣いているのか。だれを探しているのか。」という言葉を聞いた。しかしかの女はぞれを庭師と思った。その姿は輝かず、白い衣服を着て薄もやの中に立っているただの人間のように見えたからである。マグダレナは直ちにくり返して言った。「あなた、もしあなたがあの方を取り去ったのでしたら、どこにおいたかを教えて下さい。わたしは取りに参ります。」そう言ってかれが主を近所に置いたのではないかと再びあたりを見まわした。すると主は聞き慣れた声をもって「マリア」と言われた。その声を聞くやかの女は主の十字架の刑も、ご死去も、ご埋葬もすっかり忘れてしまった。そして主がまだ生きたまえるごとく「ラボニ」(師よ)と叫び、主の前にひざまずき、おん足を抱こうと腕を差しのべた。しかしイエズスは手を上げてこれをさえぎりおおせられた。「わたしに触れてはいけない。わたしはまだおん父のもとに登っていないのだから - 。しかし兄弟たちの所に行き、かれらに告げよ。 - わたしはわが父にして、またおまえたちの父、わが神にして、またおまえたちの神の所に登ろう - 。」と。そして主は消え失せられた。

 マグダレナは急いで立ち上がった。すべてが夢のようだった。もう一度墓の方に走った。そこにはまださっきの通り二位の天使とただ布が見えるだけであった。かの女はこの奇跡を確信した。そして連れの二人の婦人の方に急いだ。

 マグダレナが庭を出るか出ないうちに、ヨハネが現れ、すぐかれのあとにペトロもついて来た。ヨハネは入口に立った。そして開かれた墓の扉を通し、中をのぞこうとしてかがんだ。かれはそこに聖骸布を見た。その時ペトロがやって来た。ペトロは中に入った。そこに聖骸布が両端から巻き込まれていた。そして香料がその中に包まれ、紐で結わえられているのを見た。お顔の布は壁の右の方に置かれ、これもたたんであった。ヨハネがペトロにつづいて中に入って来た。かれもまた同じことを目撃した。それで主がおおせられ、また書き記された言葉が二人にやっと了解できた。それまでかれらはそれらの事柄を、ただ通り一ぺんにしか理解していなかった。ペトロは聖なる布を自分のマントの中に入れた。二人はニコデモの小門から再び帰ったが、ヨハネは今度も先に走って行った。

 二位の天使は聖遺骸がそこにある間は台の頭と足のところに座っていたが。マグダレナと二人の使徒が墓に来た時にもまだそこにいた。しかしわたしには、ペトロがそれに気づいていないように見えた。わたしはあとになってヨハネがエンマウスの弟子たちに墓で天使を見たと、話しているのを聞いた。おそらくかれはペトロよりも余計に見ることを許されたというような印象を起こさせないために、謙遜してこのことについて聖書に何も書かなかったのだろう。

 さてわたしは附近に倒れていた監視兵がようやく起き上がって来るのを見た。かれらは急いで立ち上がり、槍や扉の所で棒の先に燃やしていた火かごを取り、びくびくしながら、また正気を失ったようになって城門を通って街の方に引き上げて行った。

 一方、マグダレナはその間、聖婦人たちの所に行き、主の出現を語った。かの女はさらに街に急いだ。しかし婦人たちは庭の方に戻って行った。庭の入口で白いゆるやかな衣服をつけた主がかの女たちに現れ「平安あれ。」とおおせられた。一同は打ちふるえつつ、主の足もとにひれ伏した。主はさらに二言、三言おおせられ、手である方向を示された。そして消え去られた。聖婦人たちは自分らが主を見たこと、および主がおおせられたことを弟子たちに告げようとして急いだ。弟子たちは初めのうち、かの女たちの言うこともマグダレナの証言も信用せず、ペトロとヨハネの戻るまで、すべてを婦人の空想と考えられていた。

 ヨハネとペトロは帰り道で自分らのあとから墓に行こうとした小ヤコブとタデオに出会った。二人が晩餐の広間の近くまで来た時、かれらに主が現れたもうた。かれらは恐れ、かつおののいた。ペトロは驚いていた。そして考え深くなっていた。わたしはかれがその途上であたかも実際主を見たかのように一度突然恐れにおそわれたのを見た。




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